コロボックル物語の年表をつくってみた① だれも知らない小さな国=前篇= および コロボックル物語の年表をつくってみた② だれも知らない小さな国=後篇=では、太平洋戦争という現実世界と物語世界をつなぐ歴史的な出来事がありましたが、「コロボックル物語2 豆つぶほどの小さないぬ」からは、現実世界の歴史上の出来事との具体的なリンクはありません。しかし前作からの経過年数によってある程度の推測は成り立ちます。ここが作者の巧妙なところです。

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「だれも知らない小さな国」と「豆つぶほどの小さないぬ」の間にコロボックル小国およびせいたかさんに起こった変化は次の通りです。

  • モチノヒコ世話役の引退、およびヒイラギノヒコの新世話役就任
  • せいたかさんとおちび先生の結婚
  • せいたかさん一家が家を建てて正式に小山に住む
  • クリノヒコが連絡係になる
  • おチャメさん誕生(おちび先生がママ先生に)

これらの変化は何年の間に起こったのでしょうか?

前の世話役だったモチノヒコ老人が、「じぶんはもう年をとりすぎたから、かわりの世話役をえらぶように。」といったとき、コロボックルみんなが、このヒイラギノヒコをえらんだ。 =豆つぶほとの小さないぬ~第一章コロボックル通信社となかまたち

この、ふたりめの味方は、ぼくたちが願っていたとおり、五年前に、せいたかさんのおよめさんになった。いまでは、ぼくたちがおチャメといっている三つになる女の子がいて、おちび先生が、いつのまにか、ママ先生になってしまった。 =豆つぶほとの小さないぬ~クリノヒコのあいさつ

しかし、せいたかさんは、ようやく三年前になって、ここに、この小さい家をたてた。=豆つぶほとの小さないぬ~第一章コロボックル通信社となかまたち

「この小山の正式な持ち主は、一日も早くこの小山に住むべきだ。」そういって、まだ年も若く、結婚してまもなかったせいたかさんをつかまえては、熱心にふきこんだ。それでせいたかさんもとうとうその気になり、ほとんど借金ばかりで、なんとかちっぽけな家を作った。=小さな国のつづきの話~第二章わたしはコロボックル


最低5年は経っているのは容易にわかりますが、「ようやく三年前になって」とあるので、それ以上のような気もします。それを解決する糸口は次の記述にあります。

その新聞をもってくる男の子のことなら、もちろん、ぼくはよくおぼえている。きのうも、せいたかさんといっしょのときに会ったばかりだ。まだ十くらいの、ほっぺたの赤い無口な子だった。=豆つぶほとの小さないぬ~第二章コロボックル通信社は動きだした

服のえりには中学校のバッジが光っている。中学二年生だ。=星からおちた小さな人~第二章この世にただひとりとなるべし

あのエク坊は、赤んぼのときに局長さんの家にひきとられている。ぼくがとばされたのも、そのころだった。=豆つぶほとの小さないぬ~第三章コロボックル通信社の事務所

ママ先生は、ただ、小山の小屋にいるせいたかさんに、はじめて手紙を出しただけだ。(略)鬼門山というのは、この村の人たちが、ぼくたちの、矢じるしのさきっぽの国、コロボックル小国につけた、古い名まえだ。せいたかさんは、コロボックル山という新しい名まえをつけていたが、ママ先生は、古いほうを、手紙のあて名に使ったのだろう。=豆つぶほとの小さないぬ~第一章コロボックル通信社となかまたち

クリノヒコ=風の子の見立てだとエク坊は現在10歳前後ですが、第三巻「星からおちた小さな人」でエク坊は中学二年生とはっきり言及されています。そして、豆つぶほとの小さないぬで「三つになる」おチャメさんが第三巻で小学校二年生なので、第二巻と第三巻の間には5年の経過があることがわかります。よって、第二巻時点でエク坊は9歳となります。

  • エク坊は赤ん坊のころ親戚に引き取られる
  • 風に飛ばされたクリノヒコ=風の子は、おちび先生の手紙を運ぶ郵便配達に便乗して小山に戻る

この二つが同時期に起きています。エク坊の年齢から推測して8年ほど前の出来事です。クリノヒコ=風の子の回想だとその時すでに「コロボックル山」の名称が存在しているので、せいたかさんは小山を買い取ってい以降の出来事でなければなりません。

さらにもうひとつ、第三巻でエク坊は中学二年になっていますが、この第三巻「星からおちた小さな人」は1965年の刊行ですから、第三巻のテーマ「ミツバチ事件」はそれ以前に起こっていなければなりません。

しかし、手紙を出した時がコロボックル小国誕生の年の翌年以降だと、後に出る第三巻の刊行時期との矛盾が生じます。コロボックル小国誕生の年にすると、ミツバチ事件の発生と第三巻の刊行が同じ年になります。ただし、同じ年というのはいささか現実的ではありません。

ここでしばらく行き詰まってしまいましたが、もう一つ思いついたことがあります。

第一巻でママ先生(当時はおびち先生)がせいたかさんに手紙を出しているのです。おそらくこれがママ先生からせいたかさんへの「はじめての」手紙になると思われます。ただし、その手紙はせいたかさんの自宅に届いていますし、手紙の内容も「道路建設事件」の顛末に関するやりとりなので、これははコロボックル小国誕生の前、すなわち「コロボックル山」の名称がなかった時期の出来事です。

おちび先生からは家のほうに折り返し返事があった。=だれも知らない小さな国~第五章新しい味方

なので、最初この記述は今回の検証に入れませんでしたが、

  • 「初めての手紙」というキーワード
  • この手紙をクリノヒコ=風の子を小山に帰してくれた手紙とすると、第三巻の刊行時期は「ミツバチ事件」の翌年になる
  • 「ツムジイ」の件(後述)も少しスッキリする

上記の理由から、クリノヒコ=風の子が風に飛ばされたときと、エク坊が局長さんの家に引き取られた時期を、第一巻でママ先生がせいたかさんに手紙を書いた時期と同じとします。これは「道路建設事件」が解決をみた年で、コロボックル小国誕生の前年です。当時のおちび先生が「鬼門山」の名称を使ったのは、当時まだコロボックル山の名称はなく、クリノヒコ=風の子の勘違いとしてしまいます。

次に「ツムジイの件」です。

コロボックル物語第四巻「ふしぎな目をした男の子」に登場するツムジイは、前世話役のモチノヒコと同い年です。モチノヒコはシリーズ中で亡くなったことが書かれていますが、ツムジイはシリーズが完結した後も現役の学者として登場します。シリーズが完結するのはせいたかさんの娘であるおチャメさんが大学にあがるころです。なので、ここでモタモタしているとツムジイが異常なまでの長生きになってしまうのです。

長々と書き連ねてしまいましたが、ここいら辺でやっと結論が出せそうです。落ち着きの良い話としてはヒノキノヒコはコロボックル小国の設立を見届けて引退し、後を若いヒイラギノヒコに譲ったというストーリーでしょうか。そのとき60歳と仮定するとツムジイが現実離れした長寿にならなくて済みます。モチノヒコがせいたかさんに味方になってくれるよう頼んだとき

ひとりは白いひげをはやした老人だった。=だれも知らない小さな国~第三章矢じるしの先っぽ

の記述があり、これはコロボックル小国建国の2年前の出来事なので、この時点で58歳だとすると「老人」と言い切るのは難しいかもしれませんが、ここら辺りを落としどころとします。ちなみに、この年齢計算だと、小学生だったせいたかさんに姿を見せた時点ではモチノヒコ46歳です。

そして、せいたかさん達が結婚したのは、コロボックル小国誕生の翌年、その2年後に小山に引っ越し・おチャメさん誕生・クリノヒコ=風の子の連絡係就任。の出来事があります。
つまり、前作との時間経過は5年です。

さて、この物語自体は半年足らずの出来事です。物語の始まりのほうに

よくはれた秋の朝は、ほんとうに気持ちがいい。=豆つぶほとの小さないぬ~第一章コロボックル通信社となかまたち

そしてクリスマス、お正月のエピソードをはさみ、物語の終盤

ほんとうに、もうじき春だ。=豆つぶほとの小さないぬ~第五章コロボックル通信社に春がくる

と記述があります。(ちなみに第三巻はわずか三日間のできごとです) なので、実はこの物語自体の「年表」は本来なら作りようがないのです。しかし、この物語に出てくる登場人物=コロボックル通信社の仲間・おチャメさん・エク坊=は、新しいコロボックル小国の第二世代とも言える人々なので、もう少しだけさぐってみたいと思います。

そこで、この物語の語り手でもあるクリノヒコ=風の子と仲間のコロボックルたちの年齢について考察してみることにしました。

ぼくは三年前からせいたかさんのれんらく係をしている。 =豆つぶほとの小さないぬ~クリノヒコのあいさつ

そして、クリノヒコ=風の子が連絡係に就任したときは、まだ少年の面影が残っていたことをハギノヒメ=現ヒイラギノヒコ世話役夫人が証言しています。

「考えてみるとね。」(略)「あたしが、風の子をはじめて見たとき、こんな子どもで、だいじょうぶかしらと思ったのよ。」=豆つぶほとの小さないぬ~第二章コロボックル通信社は動き出した

それから、連絡係になる年齢として第五巻に次のような文章があります。

なお、このときの候補には(略)しかし、まだ十四か十五のころで(略)もしせいたかさん一家がずっと小山にいたとすれば、ツクシンボのほうがえらばれていたかもしれない。=小さな国のつづきの話~第二章わたしはコロボックル

つまり、15歳くらいで連絡係になることは問題ないようです。コロボックルの学校は8歳から3年間なので、12歳でも良いのですが、冒頭の挨拶でクリノヒコ=風の子が

ぼくはクリノヒコだ。背の高さは三センチ二ミリで、これでもコロボックルの中では高い方だろう。=豆つぶほとの小さないぬ~クリノヒコのあいさつ

と言っています。マメイヌ捕獲の時期、大人の背丈になっていること、さらに5年後に起こるミツバチ事件の時にはすでに結婚していることもふまえて、連絡係になったのは15歳のときとします。この物語中では18歳、風に飛ばされたのは11歳のころです。初代「コロボックル通信社」の通信員も同年代ですね。その中でカエデノヒコ=ハカセだけは少々年上の様です。本当はサクラノヒコ=サクランボは第三巻から登場する妹のおハナとの年齢差を考慮して他のメンバーより少し年下の方がしっくりくるのですが、サクランボの背が小さいことは書いてありますが、年齢については言及がありませんでした。

ぼくとこいつは、子どものとき__というより、赤んぼのころからの親友だった。同じ日に生まれて、となりどうしで育ったのだ。=豆つぶほとの小さないぬ~第三章コロボックル通信社の事務所

まず、カエデノヒコだ。(略)ぼくたちより、すこし年上で、えらばれて、コロボックルの医者になる勉強をしている。=豆つぶほとの小さないぬ~第一章コロボックル通信社となかまたち

そして、後にクリノヒコ=風の子のパートナーになるクルミノヒメ=おチビは、

戸口のところにかくれていた、クルミのおばあちゃんというのは、まだぼくよりずっとわかく、まるで、子どものように見える女の子だった。=豆つぶほとの小さないぬ~第二章コロボックル通信社は動き出した

とあるので、やはりクリノヒコ=風の子と同じように連絡係就任は15歳とします。
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2015年10月追記

佐藤さとる氏からコロボックル物語のバトンを受け取った人気作家の有川浩さんによる、新しいコロボックル物語が始まりました。
かわいた畑に撒いた水からたくさんの芽が出て「だれもが知ってる小さな国」ができあがった